911DAYS メイキング NINE ELEVEN DAYS Vol.4ポルシェのダンパーについて
更新日: 2007年01月31日
ここでは、紙幅の関係でVol.4に掲載できなかったダンパーの話を紹介したい。ポルシェに限らず、いろいろと興味深い話が聞けた。
ショックアブソーバーが持つ役割について
ポルシェの足まわりを変更するとき、まず考えが及ぶのがショックアブソーバーとコイルスプリングの交換だ。ショックの主な役割は2つある。ひとつはその名の通り、shock(衝撃)をabsorb(吸収する)すること。クルマの各所についているラバーやブッシュと同様に、路面の凹凸によって発生する衝撃を和らげる役目。そしてもうひとつは、クルマの姿勢を適正に保つことだ。
最初に、適当な板の中央にモーターをつけて走らせるおもちゃをイメージしてほしい。昔、学研から「科学」と「学習」という教材付きの雑誌があったが、その「科学」のほうについていた付録をイメージしてくれれば、一番しっくりくるかもしれない。
まず、そのおもちゃを水平で凹凸のないところを走らせてみよう。まあ、これはタイヤの径が違ったり、斜めに取り付けていたりしない限りは、まっすぐスムーズに走るはずだ。ところがこれを凹凸のあるところ、例えば砂利の上なんかを走らせると、クルマはガタガタ進んで、ちっともスムーズじゃないばかりか、ちょっと大きな石につまずいてあらぬ方向に行ってしまう。
これをクルマに置き換えてみると、舗装された路面では問題ないが、逆に田んぼのあぜ道など、凸凹のある路面では振動がひどく、その上、簡単にハンドルをとられて、田んぼにダイビングしてしまうだろう。
ちょっと強引なたとえだったが、とにかく路面からの入力を吸収するために、コイルスプリングが登場する。これはなにも自動車における発明ではなく、馬車の時代からあったアイデアだから、世界で最初の自動車にもおそらく取り付けられていただろう。
しかし、確かにコイルスプリングをつければある程度の凹凸は吸収できる。しかしバネには反発がある。単にコイルスプリングをつけただけでは、少し大きな衝撃を受けると、しばらくの間、吸収と反発の繰り返しで、クルマはグワングワンと上下動を繰り返すことになる。
激しく上下動を繰り返しながら、道路を爆走するクルマ。……それはそれでちょっと楽しそうだが、すぐ飽きると思うし、なにより乗ってて気持ち悪い。
そんなコイルスプリングの動きを制限するのがショックアブソーバーのひとつめの役割。もうひとつの役割は平たく言えば、荷重の移動による姿勢の変化を極力抑えることだ。
さっきモーターを中央に乗せると書いたが、これをフロントタイヤと同じ場所に乗せるか、リアタイヤの近くに乗せるかで、前後の荷重が決定する。アクセルとブレーキで前後に荷重が変化する。さらにコーナリング時の荷重の変化を考えれば、コイルスプリングだけで車体の姿勢を安定させるのは、まさに至難の業。それをショックアブソーバーの減衰力によって安定させるのだ。
では、911でコーナーを気持ちよくクリアするためには、どんなセッティングを施したらいいのだろう。911は言うまでもなく、リアにエンジンを置いて駆動輪もリアにあるRR車だ。当然、荷重がリアに偏っている。一方、FF車では、フロントに荷重が偏っており、その違いはコーナーの入り口と出口で大きく現れる。コーナーの入り口において、フロントにエンジンを載んでいるFF車は、RR車と比べてショックアブソーバーとコイルスプリングの縮み側を柔らかくすることはできないが、リアヘビーなポルシェでは、フロントを柔らかくして追従性を高めることもできるのだ。
逆にコーナーの出口では、リアの伸び側を柔らかくして、トラクションをスムーズにかけられるようにすることができる。
つまり、ポルシェはRRゆえに高い旋回性能と十分なトラクションを秘めたクルマだと言える。そして、同時にショックアブソーバーやコイルスプリングのセッティングにこだわれば、無限の可能性を秘めているとも言えるのだ。それが今回の取材の収穫である。
取材協力/寺本浩之氏
撮影協力/セントラル
寺本浩之
89年より、ショウワのサスペンション・エンジニアとして全盛期のマクラーレン・ホンダのダンパー開発に携わり、その後もフェラーリやベネトンなどF1トップチームを渡り歩いた経歴を持つ。昨年もパノスのエンジニアとしてル・マンにも行っている。993用ダンパー、ファインアティチュードの開発の中心人物でもある。
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