ポルセキ新聞お蔵入り原稿に花束を嫁との葛藤、家族の罵声　後編

更新日: 2007年10月01日

7年前に出る予定だったポルシェ初心者向け単行本用お蔵入り原稿の後編。今から7年ほど前の原稿ですので、現状にそぐわない面がありますが、その辺はご容赦を。また、文中に頻発する「ポルシェ主義者」というのが、たしかこの単行本のキーワードになっていたように記憶しています。なお、文体は単行本用のままになっております。

（前編からの続き）
　このパターン一と二を、日ごと何週間も何ヶ月も繰り返すことにより、たいていの奥さんは仕方なく折れることになる。好きで一緒になった旦那の「子供の頃からの夢」を聞いてあげたくなるのが、愛情だからだ。しかし注意して欲しいのは、奥さんが折れてくれるのは、「日頃からわりと夫婦仲が良い」家庭に限られるから決して勘違いしてはいけない。ポルシェ購入の道は、常日頃の努力が実を結ぶのである。ここでポルシェ購入を承諾した奥さんは、ポルシェが様々な喧嘩の元になることをこの時点では知る由もない。

　さて、パターン一と二を併用しても、どうしても奥さんを口説けない場合、精神的に追い詰められて逆上することになる。逆上して事が上手く運ぶはずがないことは、大人なら誰でも知っている。これではまるで子供だが、気持ちはスーパーカーブームのあの頃にトリップしているから仕方がない。このパターン三までもつれ込んだ場合、ポルシェを手に入れることは非常に困難になる。

　この他にも、内緒で買って来て事後報告するというのもあるが、これは場合によっては家族崩壊にも繋がる禁じ手である。

　ともかく様々な努力により、ポルシェ主義者の元へポルシェがやって来ると、ポルシェ主義者の頭の中はポルシェ一色に染まる。

　仕事から帰ってくると、夕食もそこそこに夜な夜なドライブに出かける。休日までの日数を指折り数え、その日がやって来ると、ポルシェに乗り込みひとりで出かけてしまう。もしくは、家族をポルシェに押し込み遠出する。ポルシェが少し汚れては、嬉々として一日中洗車し、オイル交換をするためにショップへポルシェを持っていったり、新品タイヤに履き替えたりと、なにかと出費が重なる。終いには、知り合いのポルシェ主義者のポルシェに付いていたパーツが欲しいと小遣いをせびるようになり、ポルシェのあそこに不具合が出たと嘆きながら、お金の無心をしてくる。

　こうして、奥さんの日に日に膨れ続けて来た堪忍袋は、地響きとともに破裂する。どう考えても、近所や友達の家庭とは違うからだ。もうポルシェはたくさん。ポルシェの顔なんか見たくもない。もっと家族団欒の日々が欲しい。もっと家族みんなのために、有効にお金を使いたい。

　しかし、ポルシェ主義者は、そんな奥さんの怒りが日々持続するものではないことをよく知っている。奥さんからの罵声は嵐と思い、ただ過ぎ去るのを待つ。

　それでも、やはり少しは悪いかなと感じる時は、「今度の休日は、デパートに家族みんなで出かけよう」と誓う。もちろん、家族への大サービスのつもりだ。

　家族サービスの当日、賑やかにはしゃぐ家族に微笑みかけ、ポルシェ主義者はなんのためらいもなくポルシェのキーを握って駐車場へと歩き出す。