ポルセキ新聞お蔵入り原稿に花束を嫁との葛藤、家族の罵声　前編

更新日: 2007年09月21日

まだあります7年前に出る予定だったポルシェ初心者向け単行本用お蔵入り原稿。今から7年ほど前に書いた原稿ですので、現在の状況にそぐわない面がありますが、その辺はご容赦を。また、文中に頻発する「ポルシェ主義者」というのが、たしかこの単行本のキーワードになっていたように記憶しています。なお、文体は単行本用のままになっております。

　前章を読んでいただければ分かるように、既婚ポルシェ主義者は、多かれ少なかれ家族に迷惑をかけている。悪気がないのがせめてもの救いだが、悪気がないだけに性質が悪いとも言える。

　それはさておき、既婚ポルシェ主義者がポルシェを購入する時、家族を口説くパターンは、時系列に沿って次の三つに分かれる。

一、理論立てて説明する。
二、情に訴えて説得する。
三、とにかくキレる。

　一は建設的だ。少なくとも、表面的にはそう見える。

　一の口説きパターンを使用する場合の常套句が、「ポルシェに十年は乗るからさ」というもの。ポルシェの中古車価格が一般サラリーマンにも手の届くところにまで降りてきた現在、新車の国産車の価格と中古ポルシェの価格は、ほとんど同じ価格帯にある。

　「国産車だと三年か四年に一回買い換えるから、結局ポルシェよりも高くついちゃうんだよね」

　というのがその論旨だが、ポルシェ主義者は知っている。国産車はピカピカの新車だが、買おうと目論んでいるポルシェは、十数年落ちの大中古車だということを。新車の国産車は、三年や四年では逆立ちしたって壊れない。一方の大中古ポルシェは、とてもデリケート。エンジンやクラッチ、トランスミッションなどという大御所が壊れた場合、数十万から一○○万円を越す出費になる。しかし、それはあくまでも秘密だ。そんなこと正直に言ったら、購入を反対されるに決まっている。

　また、「だったら、国産車に十年乗ればいいじゃないの」という、ごくまっとうな奥さんの意見に対しては、「国産車は飽きちゃうだろ。とてもそこまで乗れないよ」と、即座に答えることにしている。

　このように説明したところで、一般的には、奥さんのポルシェ購入許可はほとんど降りない。それで、口説き作戦はパターン二へとやおら移行することになる。

　二のキーポイントは、いかに奥さんの情に訴えられるか、というところにある。このパターン二の常套句が、「ポルシェに乗るのが、子供の頃からの夢だったんだ」というもの。特にスーパーカーブームを体験し、ポルシェウイルスに感染しているポルシェ主義者にとってこれは決して嘘ではない。必然的に、訴えかける瞳には切実さが色濃く表れる。

　中でも、小さな子供を持つ三○代のポルシェ主義者の場合、「夢を叶えるのは、今しかないんだ。子供が大きくなったら、色々とお金がかかって、とてもポルシェには乗れないよ」と付け加えることも忘れない。家族の将来のことはしっかり考えているんだよ、というスタンスを主張するわけである。現在の家族のことはそれほど考えていないが、それには決して触れたりはしない。
（後編に続く）